「経営リスク削減のためにも、定着率向上のためにも労務リスクを削減したいが、何から手をつければいいかわからない」、「働き方改革関連法、その他労働法の改正に対応できているか不安」という経営者・人事労務担当者の方はまずは「労務監査」で現状を可視化することを推奨いたします。
試用期間中のトラブルへの対応事例:勤務条件の食い違いに対する慎重な対処
診療所の現状と労務課題
従業員5人のある診療所で、新たに採用したパート従業員に対する問題が発生しました。面接時には、採用側が提示した勤務時間に対して「できます」という返事を得ていたため採用に至ったものの、入職後、他のスタッフに対して「午後のみの勤務が希望」と話していることが判明。勤務時間に関して認識の食い違いが起きていることが分かりました。
さらに、勤務開始直後から、従業員が「子どもの精神状態が不安定」「子どもが熱を出した」という理由で欠勤することが重なり、今後の勤務が不安視される状況になりました。診療所側は早期の解雇を検討し、社労士に「14日以内であれば解雇が可能か」と相談しました。
社労士事務所からの提案内容
社労士は以下の内容で対応をアドバイスしました。
14日以内の解雇の可能性
試用期間中であれば、14日以内に解雇予告手当を支払わずに解雇予告を行うことは可能です。しかし、解雇そのものには正当な理由が必要で、正当な理由がない場合、解雇は無効となるリスクがあるため慎重に進めるよう伝えました。
まずは勤務条件の確認と伝達
診療所が採用時に伝えた勤務条件を改めて伝えることを提案しました。社労士からは、「面接で話した通り、午後だけの勤務では契約はできない」ことをまず伝え、相手の反応を確認するようにアドバイス。また、「子どもの体調不良や精神状態によって欠勤が続くと、診療所の業務に支障が出るため、契約した勤務時間を守ってほしい」という意向をはっきり伝えることが必要だと助言しました。
契約書の重要性
今回、雇用開始日に忙しくて契約書を取り交わしていなかったことが認識の食い違いにつながったため、今後は必ず契約書を取り交わして、労働条件を明確にしておくよう提案しました。
解決後の結果
診療所は社労士のアドバイスに基づき、従業員に対して面接時に説明した勤務時間での契約を改めて伝えました。また、欠勤の頻度が続くと診療所の運営に支障をきたすことを説明し、契約内容を守るよう求めました。この対応により、双方で話し合いが行われ、今後の方向性について確認を進めることができました。
本件のポイント
今回の事例で特に重要だった点は以下の通りです。
慎重な解雇対応
試用期間中の解雇は14日以内であれば可能ではあるものの、正当な理由がなければ無効となるリスクがあるため、慎重に対応する必要があります。
労働条件の確認と伝達
面接時に伝えた勤務条件に従えない場合、その内容を従業員に明確に伝え、今後の方向性を確認する姿勢が重要です。
契約書の取り交わし
雇用契約書をしっかりと取り交わしておくことが、労働条件の食い違いを防ぐ上で不可欠であることが浮き彫りになりました。
まとめ
今回の事例は、試用期間中の解雇や勤務条件の食い違いに対して、社労士のアドバイスに基づいて慎重に対応したケースです。労働条件の確認と伝達をしっかりと行うことで、早急な解雇に走ることなく、適切な労務管理の対応を進めることができました。今後のトラブルを防ぐためにも、契約書の取り交わしと労働条件の明確化が重要であることを改めて学ぶことができた事例です。