「経営リスク削減のためにも、定着率向上のためにも労務リスクを削減したいが、何から手をつければいいかわからない」、「働き方改革関連法、その他労働法の改正に対応できているか不安」という経営者・人事労務担当者の方はまずは「労務監査」で現状を可視化することを推奨いたします。
扶養範囲について知りたい!
複雑で分かりにくい扶養範囲
「‘扶養範囲内で働きたいと職員が言ってるのでお願いします。’と言われているんだけど、どうしたらいいの?」というご質問をお受けいたします。
中には「絶対に扶養範囲内で働く方がいいわよ、と先輩に言われたんですけど、その先輩、なんでいいのかは分からないって言ってるんです。」と言った言葉だけが独り歩きしているケースもあります。
では、扶養範囲とは一体何か?ご説明してまいりましょう。
扶養範囲にはいくつもの壁がある
ひと言で扶養範囲内、と言っても実は税金上・社会保険上それぞれに定義があります。
また「103万の壁」「130万の壁」と言われるように複数の「壁」が存在しています。
加えてその壁も、自分自身の収入による壁と配偶者の収入に関する壁があるために、分かりにくくなっているとことです。
では、どんな壁があるか見ていきましょう。(図1)
出典:2020年版/扶養控除・扶養内について簡単にわかる!年収13万円の壁って何?(エン派遣)
表にもある通り、税制上の扶養と社会保険法上の扶養があり、併せて6個の壁があります。
こちらのコラムでは、社会保険上の扶養範囲についてご説明していきます。
0か100か!?社会保険上の扶養範囲
税制上の壁が収入により徐々に税金の負担が増えていくという緩やかなものであるのに対し、社会保険上の扶養範囲は壁を超えると保険料を「払う」か「払わない」かの大きな違いが出てきます。
では、その壁「106万」と「130万」をしっかりと理解していきましょう。
【130万円の壁】
社会保険上の壁ということ、今までは一般的には130万円の壁のことを指していました。
この130万円と言うのは、超えると夫の社会保険の扶養から外れるラインとなります。社会保険の扶養に入れる人(以下「被扶養者」という)は以下の通りとなります。
年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
- 同居の場合 収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
- 別居の場合 収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満
年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。(給与所得等の収入がある場合、月額108,333円以下、雇用保険等の受給者の場合、日額3,611円以下であれば要件を満たします。)
また、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれます。収入が扶養者(被保険者)の収入の半分以上の場合であっても、扶養者(被保険者)の年間収入を上回らないときで、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、扶養者(被保険者)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認めるときは被扶養者となることがあります。なお、配偶者、子、孫および兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属には、同居の要件はありません。
【106万円の壁】
ただし従業員数501人以上の企業では社会保険の適用拡大により、2016年10月より以下の要件で被保険者となっています。
・週の所定労働時間が20時間以上あること
・賃金が月額8.8万円(年収106万)以上であること
・学生でないこと
・雇用期間が1年以上見込まれること
これが「106万の壁」になります。「500人以上なんていないから大丈夫!」と安心してはいられません。法改正により段階的に被保険者の範囲を拡大し2022年10月には従業員数100人超(101人以上)、2024年10月には50人超(51人以上)に拡大していく予定です。(雇用期間が2か月超見込まれると、期間も変更されます。)
従業員数101人を超える企業にパートでお勤めの現在被扶養者の方も、法律の施行が目の前に迫ってきているので、今のうちから働き方を考えたほうがいいでしょう。
(参考) 厚生労働省:社会保険適用拡大特設サイト
社会保険適用拡大 特設サイト|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
また年間収入が130万円に満たないとしても、週の労働時間・月の勤務時間がお勤めの企業の通常の労働者の4分の3以上の場合は被保険者となりますので、通常の労働者の週所定労働時間が短い場合は注意が必要となります。
扶養を外れるとデメリットだけなのか?
扶養を外れてご自身で社会保険の被保険者となった場合は、将来受け取れる年金額が多くなります。
厚生年金の報酬比例部分の計算方法は以下の通りとなります。
報酬比例部分=平均標準報酬額×一定乗率×加入期間
つまり被保険者期間が長くなると平均報酬月額が高くなるので、年金額が高くなるのです。
その他に勤務時間が長くなることによりキャリアアップの可能性が高くなる等のメリットもあります。
目の前の損得だけではない扶養範囲内という考え
今まで支払わなかった保険料がかかることになるので、この扶養範囲問題はとても大きなものでしょう。
従業員には正確な知識と将来設計をすることにより、納得した形で働くことが望まれますので、企業としても正確な法律の理解をしていきましょう。
社会保険労務士法人アミック人事サポートは、栃木・宇都宮を中心に東京、埼玉、千葉などの企業様に人事労務に関するご支援をしています。本コラムをご覧になり、人事労務に関する相談をご希望の場合はお問い合わせからご連絡ください。