「経営リスク削減のためにも、定着率向上のためにも労務リスクを削減したいが、何から手をつければいいかわからない」、「働き方改革関連法、その他労働法の改正に対応できているか不安」という経営者・人事労務担当者の方はまずは「労務監査」で現状を可視化することを推奨いたします。
【2024年4月改正】労働条件明示ルールと就業規則
最終更新日:2023年10月19日
栃木県を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アミック人事サポートです。今回は、2024年4月1日に変更される「労働条件明示のルール」について解説します。
2023年3月30日に、労働基準法施行規則等を改正する省令が交付されました。この改正で有期労働契約の締結、更新、雇い止めなどの基準が変更されます。
企業の経営者や人事労務担当の方は、新ルール開始の前に改正内容を確認しなくてはなりません。早めに社内の労働条件や労働契約を見直し、変更するなど準備を進めましょう。
目次
労働条件の明示とは?
労働条件とは、労働契約の期間、仕事を行う場所、始業と終業の時間、賃金、休暇取得などを指します。雇用契約締結後に労使トラブルが起こるのを防ぐため、労働契約締結時に明示しなくてはなりません。
労働条件の明示は、労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条に定められています。明示義務を怠った場合は、使用者に30万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意が必要です。
労働条件の明示ルール 改正の背景
労使トラブル防止や従業員保護のために、これまでも労働条件の明示が行われていましたが、2024年4月からルールが変わります。
改正の背景として、無期転換ルールの周知があります。無期転換とは、有期労働契約が通算5年を超えた従業員から申込があった場合に、期間の定めのない無期労働契約に転換されるルールです。
今回のルール改正により、企業は、無期転換権を持つ従業員を把握しやすくなります。
更新上限の設定変更や上限引き下げの防止など、従業員にとってもメリットがあるでしょう。
現行の労働条件明示のルール(2024年3月まで)
最初に、2024年3月まで有効な、現行の労働条件明示ルールについて解説します。従業員を採用する際には、次の労働条件を明示しなくてはなりません。
絶対的明示記載事項(必ず明示すること)
現在、従業員を採用する際に、必ず明示しなくてはならない事項は次の7つです。
- 1.労働契約の期間
- 2.労働契約期間の更新基準
- 3.就業する場所と従事すべき業務の内容
- 4.始業と終業の時間、休憩、休日について
- 5.賃金の決定方法と支払いの時期
- 6.退職に関すること(解雇の理由も含める)
- 7.昇給に関すること
上記のうち1〜6については、原則として書面で交付しなくてはなりません。ただし従業員が希望した場合はFAXやWebメールなど、書面で出力できる形式での明示も可能です。
相対的明示記載事項(定めをした場合に明示すること)
次の8項目は企業内で規定がある場合に、明示すべき事項です。多くの企業で就業規則に定められており、書面のほか口頭での明示も許可されています。
- 1.退職手当の適用範囲、計算方法、支払い時期
- 2.臨時に支払われる賞与や手当に関すること
- 3.食費や作業用品など、従業員の負担に関すること
- 4.安全や衛生に関すること
- 5.職業訓練に関すること
- 6.災害補償や業務外の疾病扶助に関すること
- 7.表彰や制裁(懲戒の種類や手続き)に関すること
- 8.休職や配置転換、出向に関すること
2024年4月から変更となる労働条件明示の内容
前項で紹介したのは2024年3月まで有効な、現行の労働条件明示ルールです。2024年4月からの新ルールでは、さらに4つの事項が追加されます。
2024年4月から労働条件明示事項に追加されるのは、次の4つです。
- 1.就業場所・業務の変更範囲
- 2.更新上限の有無と内容
- 3.無期転換申込の機会
- 4.無期転換後の労働条件
これらは、労働基準法施行規則5条の改正(新設)によって定められます。
1.就業場所や業務の変更範囲を明示する
すべての労働者に対して、就業場所や業務の変更範囲について明示しなくてはなりません。明示すべきタイミングは、すべての労働契約の締結時と、有期労働契約の更新時です。
雇用直後の就業場所や業務内容だけでなく、変更の範囲についても明記しなくてはなりません。将来の配置転換で変わる可能性がある場合は、就業場所や業務の範囲について明示してください。
将来的に変更される可能性がある勤務地や職務が明示されるため、優秀な人材を逃さずに雇用できる可能性が高くなります。
就業場所・業務変更の明示例
働く場所や業務内容が契約時にある程度限定されている場合は、次のように明示します。
就業場所や業務内容が限定されていない場合は、次のように明示します。
- 就業場所:会社の定める事業所
- 業務内容:会社が指示する業務
労働条件通知書を作成する際は、厚生労働省発表のモデル労働条件通知書も参考にしてください。
有期契約の場合、契約当初に明示するのは当然ですが、1年後や2年後など契約を更新するたびに条件を明示する必要があります。
2.更新回数上限を明示する
ここからは、有期契約労働者への明示ルール変更について解説します。
有期契約労働者とは、1年や6か月単位などの有期労働契約を締結、更新している従業員のことです。契約社員やパートタイマー、アルバイトとも呼ばれます。
2024年4月から有期労働者に対しては、契約期間の締結と更新のタイミングごとに、更新上限の有無と回数が明示されることになりました。
更新上限の有無は「更新有り 通算契約〇年まで」のように明示します。
更新上限を新設・短縮する場合
最初の契約時に更新の上限を設置していなかったが、あとから設けることになった場合は、有期労働者に説明する必要があります。
また、最初の契約時に設けた更新回数の上限を短縮する場合も、あらかじめ説明しなくてはなりません。
3.無期転換の申込ができる機会を明示する
有期契約労働者に対して「無期転換申込権」が発生するタイミングごとに、申込できることを明示する必要があります。
初めて無期転換を行使できるタイミングだけでなく、再度有期契約を選んだとしても、更新のたびに無期転換の申込ができます。
更新時には、無期転換後の労働条件についても明示しましょう。
無期転換申込機会の明示例
無期転換申込ができる場合は、労働条件通知書や労働契約書に次のように明示します。
【明示例】
本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをしたときは、本契約期間の末日の翌日( 年 月 日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。
引用:モデル労働条件通知書|厚生労働省
労働条件明示のルール変更に備えて、企業では労働条件通知書の確認と整備を行う必要があります。労働条件通知書の内容について少しでも難しいと感じた場合は、専門家に相談することをおすすめいたします。
社会保険労務士法人アミック人事サポートでは、労働条件の明示に詳しい専門家が提案いたしますので、お気軽にご相談ください。
4.無期転換後の労働条件の明示
無期転換申込権が発生する更新タイミングごとに、無期転換後の労働条件を明示する必要があります。
無期転換後の労働条件を明示するときには、正社員など無期雇用のフルタイム従業員とのバランスを考慮し、次の点について説明するよう努めなければなりません。
- 業務の内容
- 責任の程度
- 異動の有無・範囲
無期転換ルールとは
2024年4月からの改正で重要なポイントとなる「無期転換のルール」について解説します。無期転換ルールは、平成24年8月成立の「改正労働契約法」に基づき、平成25年4月より施行開始されました。
有期労働契約後に5年を超えて更新された場合に、有期契約労働者からの申込みがあれば、期間の定めがない無期労働契約に転換される仕組みです。
引用:有期契約労働者の無期転換ポータルサイト|厚生労働省
無期転換のルールや仕組みについて詳しく知りたい場合は、厚生労働省が発行している無期転換ハンドブックをご覧ください。
無期転換のメリット・デメリット
無期転換制度の導入を行った場合、企業が得られるメリットは複数あります。一方、デメリットや注意すべき点も存在するため、詳しく解説しましょう。
無期転換のメリット
有期契約の従業員が無期転換した場合、企業と従業員の双方に次のようなメリットがあります。
優秀な人材を確保しやすい
すでに5年以上の勤務歴があり自社の内情や実務に詳しい従業員を、無期契約社員として獲得できるのは大きなメリットです。
有期期間中に優れた能力を発揮した人材を無期転換させることで、企業の戦力アップにもつながるでしょう。優秀な人材を無期労働に転換させ、長期育成も可能となります。
人材確保のコストを減らせる
優秀な有期契約雇用者を無期転換することで、新たな人材を確保するコストが削減できます。従業員募集の際に必要な、求人広告費用をカットできるためです。
また、新たな人材を雇用すると新入社員教育の費用もかかります。有期契約の従業員を無期転換することで、教育費用のコストも削減可能です。
従業員のモチベーションがアップする
無期雇用に転換できるのは、従業員にとって大きなメリットです。今後の雇用が確定するため、意欲的に働く従業員が増えるでしょう。
モチベーションがアップすることで各自の能力が発揮され、企業全体の生産性向上にもつながります。
自身のキャリアを長期的に考えられる点や、ワークライフバランスを調節しやすくなる点も大きなメリットです。
無期転換のデメリット
無期転換制度にはメリットがある一方、少なからずデメリットも存在します。無期転換契約で考えられるデメリットは、次の通りです。
人件費が増える可能性がある
有期契約から正社員に転換する従業員が多い場合は、人件費が増えるかもしれません。正社員としての基本給や各種手当、昇給や賞与などがあるためです。
人件費が増える可能性が高くなりますが、正社員に転換するときはキャリアアップ助成金が活用できるかもしれません。転換規程を作成するなど、必要に応じて要件を確認しておきましょう。
雇い止めができない
有期労働契約の従業員で次の条件に該当し、更新しない場合(雇止めをする)には、少なくとも契約期間が満了する30日前までに予告をする必要があります。
- 有期労働契約を3回以上更新している
- 1年以下の労働契約を更新、最初の締結から継続1年以上
- 1年を超えて労働契約を締結している
一方、無期転換後の従業員の場合は雇止めではなく解雇になってしまいます。解雇には厳格なルールが存在するため、十分注意して対応してください。
雇用管理が煩雑になる
パートやアルバイトが多数を占める企業では、無期転換ルールに該当する従業員が多くなると考えられます。無期転換を希望する従業員が多い場合は、雇用管理が煩雑になるかもしれません。
従業員から無期転換の申し込みがあった場合、企業側では拒否できないため、真摯な対応が必要となります。
従業員の無期転換契約を行う際に、少しでも難しいと感じたら、社会保険労務士法人アミック人事サポートにご相談ください。企業の状況に合わせて、適切なご提案をさせていただきます。
無期転換ルールのよくある質問
無期転換ルールに関しての、よくある質問にお応えします。
Q.無期労働契約に転換する従業員向けに、就業規則を整備する?
A.無期契約に転換しても、有期契約の従業員と給与は同じままの場合もありますが労働条件は変わることがあります。無期転換後の労働条件に該当する就業規則が無ければ、新たに作成する必要があります。
同時に正社員向けの就業規則も、併せて確認しましょう。就業規則の整備に関する疑問がありましたら、些細なことでも、社会保険労務士法人アミック人事サポートへご相談ください。
Q.該当する従業員から申込があった場合は、必ず無期転換を行う?
A.企業は無期転換を拒否できないため、必ず行わなければなりません。
通算契約期間が5年を超える有期契約労働者が、契約期間満了までに無期転換の申込をした場合、企業は承諾したものとみなされます。申込時点での有期労働契約が満了する翌日からは、無期労働契約がスタートする仕組みです。(労働基準法契約法第18条第1項より)
Q.60歳定年後の有期労働者でも無期転換の申込はできる?
A.60歳定年後に引き続き雇用している有期契約労働者についても、無期転換ルールは適用されます。
ただし雇用管理に関する計画を作成したうえで、都道府県労働局長の認定を受けた場合は、特例として無期転換申込権が発生しません。詳しくは「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について」をご覧ください。
弊社のお客様からもこの認定の対応依頼が増えてきています。どう対応したら良いか分からない場合は、社会保険労務士法人アミック人事サポートへご相談ください。
2024年4月の施行までに企業が進めるべきこと(就業規則)
2024年4月に労働条件明示のルールが変更されると、無期転換の申込を希望する従業員が増えると予想されます。そのため企業は、無期転換後の従業員向けに新しい就業規則を整備しておかなくてはなりません。
また無期転換制度を行う際は、有期雇用特別措置法による例外ケースが存在する事も併せて確認しておきましょう。これらの準備や自社が対象かどうかの確認は、2024年4月までに進める必要があります。
就業規則の整備や無期転換ルールに関して少しでも難しいと感じた場合は、社会保険労務士法人アミック人事サポートへご相談ください。企業の状況に合わせて、適切なご提案をさせていただきます。
⇒就業規則に関するご相談は、社会保険労務士法人アミック人事サポートへどうぞ
労働条件明示についてよくあるご質問
Q1 労働条件明示ルールはどこが法改正されますか?
2024年4月から労働条件明示事項に追加されるのは、次の4つです。
1.就業場所・業務の変更範囲
2.更新上限の有無と内容
3.無期転換申込の機会
4.無期転換後の労働条件
これらは、労働基準法施行規則5条の改正(新設)によって定められます。
詳しい説明はこちらをご覧ください。
Q2 労働条件を明示するタイミングはいつですか?
労働条件は、「労働条件通知書」において、「労働者と契約を結んだ時」に明示する必要があります。
具体的には、内定を提示した時から遅くとも入社時までを指します。
就労後であるなら試用期間であっても労働条件を明示する義務が発生するので注意が必要です。
Q3 労働条件の明示をしないとどうなりますか?
労働基準法により、使用者が労働基準法に反して明示すべき範囲の労働条件を明示しない場合は30万円以下の罰金が課されることがあります。
Q4 会社移転や支店開業の場合も明示の義務がありますか?
就業場所の勤務地を限定している事項については、勤務地が変わるごとに明示する必要があります。
Q5 パートアルバイトでも明示しないといけないですか?
パートやアルバイトを含め、1日でも雇用形態を結ぶ場合は労働条件を明示する必要があります。
特に短時間労働者に対しては次の4項目を明示しなければならないので注意が必要です。
①昇給の有無 ②退職手当の有無 ③賞与の有無 ④短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
Q6 不適切な労働条件にはどのようなものがありますか?
労働基準法に抵触する恐れがあるものとして下記のようなものがあります。
・36協定を締結していないのに、法定労働時間【1日8時間、週40時間】を超える労働時間を定めている
・必要な休憩時間を定めていない
・賃金が最新の最低賃金を下回っている
自社の労働条件について適法かどうか気になる方はぜひご相談ください。
まとめ
本記事では2024年4月から変更となる、労働条件明示のルールについて解説しました。中小企業をはじめ、多くの企業ではルール変更の前に、労働契約書や労働条件の整備に取り組まなくてはなりません。
労働条件明示のルール変更について、少しでも難しいと感じた場合は専門家に相談することをおすすめいたします。社会保険労務士法人アミック人事サポートでは、労働条件の整備に詳しい専門家が相談に応じます。お気軽にご問い合わせください。