「経営リスク削減のためにも、定着率向上のためにも労務リスクを削減したいが、何から手をつければいいかわからない」、「働き方改革関連法、その他労働法の改正に対応できているか不安」という経営者・人事労務担当者の方はまずは「労務監査」で現状を可視化することを推奨いたします。
給与のデジタル払いとは?2023年4月より電子マネーのペイロールが解禁
栃木県を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アミック人事サポートです。今回は、2023年4月に解禁となる、給与デジタル払い(デジタルペイロール)について解説します。
目次
給与デジタル払いの解禁とは
2023年(令和5年)4月1日より、電子マネーでの給与支払いが解禁となります。労働基準法 施行規則等の、一部改正省令が施行されるためです。
デジタル払い(デジタルペイロール)が解禁されると、電子マネーでも給与を支払えるようになります。銀行口座を介さずに、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを使用して給与の支払いを行えるようになるのです。
給与デジタル払いが解禁された理由と背景
給与のデジタル払いが解禁された理由と、背景について解説します。
キャッシュレス化推進の流れ
キャッシュレス決済の普及や送金手段の多様化のニーズに応えるため、給与のデジタル払いが解禁されました。
経済産業省が行った調査によると、2021年のキャッシュレス決済利用者の比率は、全体の32.5%でした。この比率は、キャッシュレス決済支払額とともに年々増加しています。
キャッシュレス決済支払額および決済比率の推移
引用:2021年キャッシュレス支払額および決済比率の推移|経済産業省
キャッシュレス決済比率内訳の推移
経済産業省はキャッシュレス決済の比率を「2025年には4割程度まで上昇させる」ことを目標としています。
給与デジタル払いの解禁は、キャッシュレス化をさらに進めるでしょう。
新たな生活様式に対応
コロナ禍以降、非接触での支払いが浸透し、キャッシュレス決済を利用する人の割合が増えました。
厚生労働省の調査によると、キャッシュレス決済利用者のうち「給与デジタル払い制度を利用したい」と答えた人は26.9%となっています。(2021年5月の調査)
利用したいと考える人の割合は、今後さらに増えるかもしれません。
外国人労働者増への利便性
外国人労働者の受け入れが進んでいることも、給与デジタル払いが解禁される理由のひとつです。
これまで、外国人労働者が日本国内の銀行で口座を作るのは、難しい傾向にありました。しかし電子マネーで給与を支払えれば、銀行口座を開設しなくてもよくなります。
外国人労働者が在籍する企業にとっては、利便性が高くなるでしょう。
これまで解禁されなかった理由
これまで給与のデジタル払いができなかったのには、理由があります。労働基準法第24条において「賃金支払いの5原則」が定められているためです。
賃金支払いの5原則は、以下のように規定されています。
- 1. 通貨で
- 2. 直接労働者に
- 3. 全額を
- 4. 毎月1回以上
- 5. 一定の期日を定めて支払わなければならない
この規定があったため、これまでは給与のデジタル払いが行えなかったのです。
ちなみに銀行振込は「企業と従業員の間で合意がある前提で」例外的に認められていました。デジタル払いも、銀行振込と同様になります。
デジタルマネーの種類
デジタルマネーとは、電子情報で決済を行えるお金のことです。どのような種類があるのかを解説します。
すべてが給与支払いに使用できるわけではないため、制度開始前に確認しましょう。
コード決済
PayPayやau PAY、d払いなどが該当します。QRコードやバーコードを読み込んで決済する仕組みです。
店舗が提示したコードを利用者のスマホで読み込む「ユーザースキャン方式」と、利用者のスマホに表示したコードを店舗が読み込む「ストアスキャン方式」があります。
使用前にスマホアプリをダウンロードし、決済方式を登録する方式です。
国際カードブランドのプリペイド
VISAやJCB、Mastercardなどの、国際カードブランドのプリペイドカードです。
使いきりのカードもありますが、チャージして使うタイプもあり、クレジットカードやネットバンキングからチャージできます。現金で、銀行ATMやコンビニからもチャージ可能です。
電子マネー
交通系と流通系の電子マネーがメジャーで、それぞれ以下のような特徴があります。
交通系電子マネー
- ・Suica(スイカ)
- ・PASMO(パスモ)
- ・ICOCA
交通会社発行の電子マネーが該当します。交通料金支払いのほか、自動販売機やコンビニでも使用可能です。モバイルSuicaのように、スマホとの連携もできます。
流通系電子マネー
- ・WAON(ワオン)
- ・nanaco(ナナコ)
- ・楽天Edy
流通系の電子カードは、店舗や通販で使用できます。買い物の際にボーナスポイントを付与されるケースも多いです。
暗号資産(仮想通貨)
暗号資産(仮想通貨)にはビットコインやイーサリアムなど、さまざまな銘柄があります。日本円やドルなどの法定通貨とは違い、独自の通貨単位です。
価格変動が激しいため、給与デジタル払いにおいては使用対象外となっています。
給与デジタル払いのメリット
給与デジタル払いが導入されると、企業にもメリットがあります。どのようなメリットがあるのか解説します。
従業員への福利厚生
電子マネー決済が浸透しており、今後さらにニーズが増えると考えられます。
電子マネーでの支払いに慣れている若年層にとっては、給与のデジタル払いを行う企業は魅力的です。未導入企業との差別化を図れるでしょう。
制度導入の際には、資金移動業者がキャンペーンを行う可能性もあります。もしキャンペーンでポイント還元が行われたら、従業員側にもメリットとなりそうです。
振込手数料の削減
電子マネーで給与支払いを行う際は資金移動業者の口座に振込みますが、銀行口座への振込よりも手数料が安くなる見込みです。そのため、振込手数料を削減できるでしょう。
従業員の人数が多い場合、銀行振込の手数料は企業にとって大きな負担となっています。
デジタル払いの導入で手数料が安価もしくは無料になれば、日払いや週払いにも対応できるかもしれません。
振込作業が電子化されることで、業務改善にもつながります。
外国人労働者への利便性向上
働き手不足により、外国人労働者が増加しています。しかし言葉の壁や手間がかかるなどの理由で、国内の銀行口座を開設するのは難しいのが現状です。
デジタルマネーでの給与支払いが解禁になれば、銀行口座を作る必要がなくなります。外国人労働者がいる企業にとっては、利便性が高くなるでしょう。
先進的な企業イメージ
デジタルマネーでの給与支払いを導入することで、社会の変化に対応していることをアピールでき、企業イメージの向上につながります。
先進的で魅力的な企業というイメージが強くなるため、採用活動においてもプラスに働くでしょう。
従業員が得られるメリットも多い
給与のデジタル払いは、従業員にもメリットがあります。
たとえば、ATMから現金を下ろさずに、すぐに支払いが可能です。電子マネーを事前にチャージする手間も省け、利便性が向上します。
現金を持ち歩かなくても済むため、盗難リスクが減る点もメリットでしょう。
給与デジタルマネー支払いのデメリット
電子マネーでの給与支払いにはメリットがありますが、その一方デメリットも存在します。確認しておきましょう。
二重運用が発生する
給与のデジタル払いを希望せず、従来通り銀行振込を選択する従業員もいるでしょう。
また給与の一部のみをデジタル払いにする場合は、支払い方法が煩雑になります。管理運用に手間がかかる点がデメリットとなりそうです。
支払い方法の変更に合わせ、勤怠管理や給与計算システムを新たに導入する場合のコストもかかります。
従業員への周知やフローが必要
給与のデジタル払いを導入する際に、従業員に周知するフローがあります。
地域性や従業員の年齢層によっては、キャッシュレス決済に馴染みがない人もいるかもしれません。わかりやすく説明し、理解してもらったうえで、給与支払方法を決めてもらう必要があります。
個人のキー情報管理が煩雑
デジタル払いを行う際は、従業員に支払先のキー情報を提出してもらいます。
電子マネー支払いに使用するキー情報は銀行の口座番号に比べると識別しにくいため、管理が煩雑かもしれません。
従業員にもデメリットがある
家賃や公共料金の引き落としは電子マネー対応が進んでおらず、銀行引き落としが多いです。そのため給与を電子マネーで支払ったとしても、銀行口座へ入金する手間がかかってしまいます。
また現在はガイドラインが十分ではないため、ハッキングの危険性やデータ流出など、セキュリティ面での不安が残ります。安心して使用できるまで、時間がかかるかもしれません。
2023年4月解禁後の流れと準備スケジュール
2023年4月1日より、指定資金移動業者が厚生労働省に申請を行います。その後どのような流れで進むのか、スケジュールを解説します。
企業が準備すべき点も解説しますので、参考にしてください。
1.資金移動業者の申請
2023年4月1日より資金移動業者の受付が開始され、厚生労働大臣に指定申請を行います。
厚生労働省のサイトに、流れが詳しく解説されていますので参考にしてください。
2.厚生労働省で審査を行う
申請後に厚生労働省で審査を行い、基準を満たしていれば大臣の指定を受けます。審査には数か月かかる見込みです。
指定資金移動業者に決定すると、厚生労働省のサイトに記載されます。
3.企業内で労使協定を締結
企業内で、給与のデジタル払いの導入を検討します。行う場合は、労働者の過半数で組織する労働組合と労使協定を締結しましょう。労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者と締結してください。
労使協定で、給与デジタル払いの対象となる従業員の範囲や、取扱指定資金移動業者を定めます。
4.企業内で従業員に説明を行う
労使協定が締結されたら、従業員に向けてデジタル給与の詳細と留意事項の説明、周知を行わなくてはなりません。
従業員は説明を理解したうえで、給与デジタル払い希望の同意書を提出します。同意書には、デジタル払いで受け取る給与額や、資金移動業者口座番号、代替口座情報を記載します。
5.給与のデジタル払いを開始する
同意書の締結が済んだら、給与のデジタル払いを開始します。
同意書に記載されている支払開始希望時期以降、給与を資金移動業者の口座に振り込めるようになります。
労使協定の締結やデジタル給与支払いについて、わからないことがありましたら社会保険労務士法人アミック人事サポートにご相談ください。
取り組みに応じて、企業は対応策の検討が必要です。企業の状況に応じてご提案をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
給与デジタルマネー支払いQ&A
電子マネーでの給与支払いは2023年4月より解禁となりますが、わかりにくい部分も多い制度です。デジタルマネーでの給与支払いについて、よくある質問にお答えします。
Q.どの資金移動業者を選択できますか?
A.厚生労働大臣が指定した資金移動業者から選択できます。
指定資金移動業者一覧は、審査終了後に厚生労働省のサイトに掲載される予定です。
Q.指定資金移動業者が破綻した場合はどうなる?
A.厚生労働大臣が指定する資金移動業者が破綻した場合は、保証機関から弁済されます。給与の受け取りに使用した口座の残高分が、保証機関から速やかに弁済される仕組みです。
弁済の方法は、資金移動業者によって異なります。給与のデジタル支払いを開始する際に確認しておきましょう。
Q.電子マネー給与を現金化する場合の手数料は?
A.毎月1回は、手数料を負担せずに口座残高を指定資金移動業者の口座から払い出せます。
払い出す方法や手数料は業者ごとに異なるため、確認が必要です。
Q.ペイロールカードとはなんですか?
A.給与のデジタルマネー支払いに対応しているプリペイドカードで、アメリカでは普及しています。VisaやMastarなどの企業が発行しているカードです。
企業が決済会社と団体契約を行い、従業員に配布することもできます。モバイルアプリと連携することで収支管理を自動的に行えるため、アメリカでは若い層を中心に利用されています。
まとめ
本記事では2023年4月1日から解禁予定の、給与のデジタル払いについて解説しました。
コロナ禍以降、日本でも非接触で支払いができる電子マネーが普及しています。電子決済を行える店舗も大幅に増え、ポピュラーになりました。
解禁をきっかけに、給与のデジタルマネー支払いを検討してみてはいかがでしょうか?
給与のデジタル払いを検討する際に、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをおすすめいたします。社会保険労務士法人アミック人事サポートでは、給与のデジタルマネー支払いの導入や、社内の労使協定に詳しい専門家が相談に応じます。ぜひ、ご相談ください。