「経営リスク削減のためにも、定着率向上のためにも労務リスクを削減したいが、何から手をつければいいかわからない」、「働き方改革関連法、その他労働法の改正に対応できているか不安」という経営者・人事労務担当者の方はまずは「労務監査」で現状を可視化することを推奨いたします。
【育児介護休業法】法改正2022年4月・10月の改正ポイントをわかりやすく解説
栃木を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アミック人事サポートです。2021年6月に育児・介護休業法が改正されました。今回の記事は、現在までの改正ポイントをおさらいしながら、2022年10月・2023年4月の施行に向けて企業が準備すべき内容について解説します。
2022年10月の施行で産後パパ育休の創設や育児休業の分割取得が可能になるほか、育休取得開始時期の柔軟化等、企業としても雇用環境の整備が喫緊の課題となります。
育児・介護休業法とは?
「育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)」とは、労働者が仕事と育児・介護を両立できるように支援する法律です。
2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月・2022年10月・2023年4月の3回に分けて段階的に施行される流れとなっています。
現行の育児・介護休業制度をおさらいしておきましょう。
育児休業制度
育児休業制度とは、子を持つ男女労働者が原則として子が1歳に達するまで休業を取得できる制度です。平成7年よりすべての事業所に対して義務化されています。対象となる労働者から申出があった場合には、事業主は必ず休業を取得させなければなりません。
対象となる労働者とは以下のとおりです。
●原則として1歳に満たない子を養育する労働者
●子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない労働者
有期雇用の場合は「申出の時点で雇用期間が1年以上」かつ「子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない」労働者が対象となります。
2022年4月の改正では、取得要件が緩和され、有期雇用の労働者も要件を満たせば育児休業制度を利用できるようになります。
介護休業制度
介護休業制度とは、要介護状態の家族を抱える労働者が介護を目的として休業を取得できる制度です。家族1名につき3回に分割が可能で、通算93日の取得ができます。
介護休業制度の取得条件は以下の通りです。
●対象家族を介護する男女の労働者
●取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない労働者
改正された背景に何があるのか
育児介護休業法が改正に至った背景には、男性労働者の育児休業取得率が依然として低く、制度を有効に活用できていない現状があります。出産を機に離職する労働者が一定数存在することも課題です。制度を取得しやすくして、仕事と家庭の両立を支援するため、今回の改正が施行されました。
改正に至った背景①男性労働者の育児休業取得率向上のため
育児休業取得者の割合は、令和2年の雇用均等基本調査によると、女性が81.6%(令和元年度83.0%)、男性が12.65%(令和元年度7.48%)となりました。
(参考:厚生労働省R2年度雇用均等基本調査)
男性の取得率は令和元年度と比較すると、やや上昇したものの、12.65%と依然として低い数値となっています。まだまだ育児休業は女性が取得するものという認識が強いのかもしれません。男性が育児休業を申請したくても上司の賛同が得られない、勤務先が制度取得に前向きでない、休業期間中に収入が減ってしまうなどの事情も考えられます。
このような男性の育児休業実態を改善するため、2022年10月改正では出生時育児休業(産後パパ育休)が新設されます。その他にも育児休業の分割取得を可能にする、取得開始時期の柔軟化といった、育児休業を取得しやすくなる制度改正となっています。男性の育児休業取得率を向上させることで、男女問わず育児をしながらでも働き続けられる環境を整えることが狙いです。
改正に至った背景②出産育児での離職率改善のため
2010年~2014年の調査では第一子を出産した女性の就業継続率は53.1%となっており、働く女性の約半数が第一子の出産を機に離職をしている現状が浮かび上がっています。たとえ育児休暇を取得したとしても、「復帰後の仕事と育児の両立が難しい」「勤務先に育児の両立を支援する雰囲気がなかった」「パートナーの協力が得られなかった」等の理由で離職せざるを得ない状況も考えられます。
育児・介護休業法の改正内容と施行スケジュール
2021年6月に改正された育児・介護休業法は、2022年4月・2022年10月・2023年4月の3回に分けて段階的に施行される流れとなっています。ここからは改正内容と施行スケジュールを解説します。
取り組みに応じて、企業は対応策の検討が必要です。社会保険労務士法人アミック人事サポートでは、企業の状況に応じてご提案をさせていただいておりますので、ご相談ください。
2022年4月施行の内容
育児休業を取得しやすい雇用環境の整備を義務化
【引用:(事業主向け)説明資料「育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~」厚生労働省(PDF)】
事業主に対して、労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境を整備することが義務化されました。環境整備についてこの改正で規定され、研修、相談窓口の設置などの複数の選択肢からいずれかを選択するよう定められています。
育児休業の周知・取得意向の確認を義務化
事業主は、従業員もしくは従業員の配偶者が妊娠・出産する申出があった場合、個別に育児休業制度を周知し、取得意向を確認することが義務化されました。これまで努力義務であった周知・確認が事業主に課せられることになります。また、労働者に育児休業の取得を控えさせるような手段での意向確認は認められません。
有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件を緩和
有期雇用労働者が育児・介護休業を取得するためには「申出の時点で雇用期間が1年以上」かつ「子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない」ことが要件でした。今回の改正では無期雇用労働者と同様の扱いとなり、「申出の時点で雇用期間が1年以上」という部分は廃止されました。ただし労使協定の締結により除外することができます。
2022年10月施行の内容
出生時育児休業(産後パパ育休)を創設
【引用:リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」|厚生労働省(PDF)】
2022年10月1日より産後パパ育休が創設されます。産後パパ育休は育児休業制度とは別に、分割して2回取得が可能です。
産後パパ育休では、労使協定を締結すれば労働者が合意した範囲で休業中に就業ができるようになります。男性労働者は育児休業中でもメール連絡やオンライン会議への参加など、会社とのつながりを持つことで、休業終了後の復職に対する不安を払拭することができます。
しかし、この休業中の就業は強制できるものではありません。あくまで「労働者が合意した範囲」という点に留意しなければなりません。それ以外にも、育児休業給付との関連も含めて改正内容を理解した上で、男性労働者への周知と就業規則の見直し、労使協定の締結をしましょう。
育児休業の分割取得が可能に
【引用:リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」|厚生労働省(PDF)】
これまでの育児休業制度では、原則として分割での取得ができませんでした。今回の改正により、分割して2回取得することができます。男性は産後パパ育休と合計すると4回の育休取得が可能になり、妻の産後サポートや職場復帰のタイミングに合わせて柔軟に取得することができます。
育児取得開始時期が柔軟に
改正前の育児休業開始日は「1歳もしくは1歳半の時点」に限定されていました。改正後は取得開始時点を柔軟に選択できるようになります。保育所入所の状況や家庭状況に合わせて、夫婦で交互に取得をするなど、労働者の育児環境を支援しやすい内容となっています。
2023年4月施行
育児休業取得状況の公表を義務化
2023年4月には、従業員数が1,000人を超える企業は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられます。具体的に公表する項目は、下記の1または2のいずれかです。
- 1.育児休業等の取得割合
- 2.育児休業等と育児目的休暇の取得割合
この取得割合は男性労働者が育児休業等を取得した割合です。公表する数値は「公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度」となりますので、3月決算の事業所であれば、令和4年4月からの事業年度の実績数を公表することになります。
施行は2023年4月1日からとなりますが、実績数の公表のため、今から準備しておく必要があります。
改正育児・介護休業法、経営者がすべき就業規則の見直しと運用準備
ここまで、育児・介護休業法改正のポイントとスケジュールを解説してきました。育児・介護休業法に違反すると事業主は行政から助言・指導・勧告などの措置を受ける場合もあります。そのような事態にならないよう、経営者がすべき就業規則の見直しや運用準備について解説します。
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和について
有期雇用労働者が育児・介護休業を取得するためには「引き続き雇用された期間が1年以上」かつ「子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない」という要件を満たさなければなりませんでした。改正案では「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件を撤廃し、有期雇用労働者の取得要件が緩和されました。
「子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない」とは、育児休業の申出があった時点で労働契約の更新がないことが確実かどうかで判断され、確実でなければ、育児休業の対象となるとされています。
また、労使協定を締結すれば要件緩和の対象外とすることができます。事業主は、有期雇用労働者への育児・介護休業取得要件について検討し、必要に応じて労使協定の見直しをしなければなりません。
出生時育児休業(産後パパ育休)の創設と育児休業の分割取得について
育児・介護休業制度の改正と産後パパ育休の創設により、育児休業を分割で取得できるようになりました。事業主は改正の内容をしっかりと理解し、労働者が円滑に休業取得できるように周知と意向確認をしなければなりません。
事業主は、労働者の休業中に業務へ支障が出ないよう、業務の配分や人員配置などを考慮し、円滑な引継ぎができるように雇用環境を整備する必要があります。
育児休業に関する研修や相談窓口の設置
事業主は労働者が育児休業について理解を深められるように研修を行い、気軽に相談できるよう窓口を設置するなどの対応が求められます。
研修は育児休業制度についての周知を行うほか、上司や同僚によるハラスメント防止にも努めなければなりません。不当な扱いを受けたときに相談できる窓口を設置し、育児休業等の取得を妨げるような雰囲気とならないように会社全体で制度について理解を深める必要があります。
性別に関係無く育児休業しやすい環境整備
前述したように、育児休業取得者の割合は女性が81.6%、男性が12.65%となっています。
(参考:厚生労働省R2年度雇用均等基本調査)
女性の育児休業取得率は8割以上と高い取得率のように思えますが、約5割の女性が出産・育児により退職している現状を踏まえると、決して働きやすい状況とは言えません。配偶者の育児参加や勤務先の環境整備を改善し、男女ともに育児をしながらでも働きやすくなるように支援を行う必要があります。
ゼネラルリサーチの調査によると、「男性の育児休業取得の為に何が必要か」との問いに対して「育児に対する周囲の理解」が最も重要であるとの結果が出ています。
【参考:男性の育児休暇に関する意識調査 | 市場調査・マーケティングリサーチならゼネラルリサーチ】
2022年10月の施行では男性労働者と有期雇用労働者が育児休業をしやすいような改正内容となっています。事業主は法改正に沿った対応を進めつつ、周囲の理解も得やすい雰囲気を醸成し、育児をしながらでも、働きやすい環境となるように整備することが求められています。
育児・介護休業法の改正内容を理解し育児休業しやすい環境を
事業主は育児・介護休業法の改正内容を正しく理解し、労働者が性別や雇用形態にかかわらず育児休業等を取得しやすいように環境を整備する必要があります。事業主は、労働者からの問い合わせに対して適切な対応ができるように準備をすすめましょう。
今回解説しました育児・介護休業法の改正内容ついて、少しでも難しいと感じられた場合は専門家へ相談することをオススメいたします。
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