「経営リスク削減のためにも、定着率向上のためにも労務リスクを削減したいが、何から手をつければいいかわからない」、「働き方改革関連法、その他労働法の改正に対応できているか不安」という経営者・人事労務担当者の方はまずは「労務監査」で現状を可視化することを推奨いたします。
就業規則とは
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就業規則とは?
労働基準法第89条に「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」とされています。
「就業規則」とは、事業場に属する労働者に関する労働時間、賃金その他の労働条件などについて具体的に定めた規則類の総称をいい、多数の労働者の労働条件を一律に定めることができます。
目次
作成の目的としては、事業主目線の目的と労働者目線の目的があります。
事業主目線としては、「1.就業規則とは?」のとおり、多数の労働者の労働条件を一律に定めることができる点や、職場の規律維持を図ることができます。また、事業主の考えを労働者へ明確に伝えるツールとして活用することもできますし、禁止事項を明確にすることでトラブル防止にも繋がります。
労働者目線としては、就業規則に定められた労働条件よりも下回ることが無いため安定して働けることや、職場規律として定められた就業規則を守っていれば制裁を受けることはないという安心感を得られます。また、働く上でのルールブックとして活用できるため、誰に何を提出したらよいかわからない、誰に相談したらよいかわからないという事象を防ぐことができ、組織における対応の流れが明確化されます。
労働基準法第89条に「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」とされており、労働基準法第106条には、就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者へ周知させなければならないと定められています。
「2.就業規則に関する義務」のとおり、常時10人以上の労働者を使用する場合には就業規則の作成義務が発生します。「常時10人以上」とは、正社員が10人以上ということではありません。時には10人未満になることもあっても、常態として10人以上の労働者を使用している場合をいい、パートやアルバイトの労働者も含まれます。つまり、常に7人しか勤務していなくてもシフトやローテーションでパートやアルバイトを含めて10人以上雇用していれば作成義務が生じます。
また、「常時10人以上」は企業単位ではなく、個々の事業場単位で判断されます。
しかし、支店や営業所の場合は独立性の有無に応じて判断が異なりますので、ご不明な場合は作成義務があるかどうかを専門家に確認することをおすすめします。
常時10人未満の場合、労働基準法上は作成義務がありませんが、就業規則の趣旨や目的からも作成することが望ましいでしょう。実際に常時10人未満の事業場でも、当法人にご依頼いただく場合が増えてきています。
周知方法の詳細については通達で示されており、以下のいずれかの方法により行わなければなりません。
①常時各作業場の見やすい場所に掲示する、または備え付ける
②書面で労働者に交付する
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
わかりやすく言えば、労働者が見たい時に見られるようにしておく必要があります。
就業規則だけでなく、付随する労使協定に関しても、周知すべき協定が定められており、「時間外労働、休日労働に関する協定(36協定)」や「年次有給休暇の計画的付与に関する協定」などが挙げられています。
これらの対策としても、就業規則と労使協定を同一のファイルや同一のフォルダで管理することをおすすめします。
「2.就業規則に関する義務」のとおり、常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則作成し届け出る義務があります。届け出は、労働基準法施行規則49条第1項に「所轄労働基準監督署長にしなければならない。」とされています。
また、届け出の際は就業規則に労働者の過半数で組織する労働組合、この労働組合が無い場合は従業員の過半数を代表する者の意見書を添付します。このときの注意点については後述する「2.就業規則の作成から届出までの流れ 2.届け出の際の注意点」で触れていきます。
なお、事業場の数がたくさんある場合は、一定の要件を満たせば、就業規則の本社一括届出制度を利用することができます。
労働基準法第120条1項により、常時10人以上の労働者を使用する使用者が就業規則の作成や変更をしていない場合や、作成や変更をしたにもかかわらず、所轄労働基準監督署長に届け出なかった場合は30万円以下の罰金に処せられます。
まず、常時10人以上の労働者を使用する場合は、作成・届け出をしていないと法令違反になってしまいます。また、常時10人未満の労働者を使用するため、作成・届け出義務がない場合でも、就業規則を作成しなければ事業場の秩序を保てなくなるリスクがあります。
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就業規則がない企業
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それでは仮に何か問題が起こした人がいた場合に、どうなるでしょうか?
「あの人は何も言われなかったのに、何で私だけ言われるんだ」
「今まで何も言われていないのに、何で今回だけ言われるんだ」
そんな声があがる可能性は高いと思います。
就業規則が無いと、ルールが不明確となり不平不満が溢れてくるだけでなく、問題を起こした労働者に懲戒処分を行うこともできません。
それだけでなく、最近では就業規則を作成し、特定の規定を設けたうえで取り組みを行うと受給できる助成金もあります。
企業秩序を保てないだけでなく、助成金のチャンスを逸してしまうこともあるでしょう。
逆に、就業規則がある場合は、何かが起こった時の対応がスムーズになります。
「i.就業規則がない企業」で例に挙げたような問題を起こした人がいた場合に、就業規則の中の服務規律を具体的に定めることで、指摘もしやすくなりますし、懲戒の根拠規定を定めることで程度に応じて「けん責」、「減給」、「出勤停止」、「昇給・昇格の停止」、「降格」、「諭旨解雇」、「懲戒解雇」といった懲戒処分が行えます。ただし、就業規則に懲戒の根拠規定が設けている場合でも、懲戒権の濫用として無効になるときがあるため、実際に懲戒処分を行うときには留意が必要です。
また、自社で取り組みたい制度が助成金の要件として設定されている場合もあります。新しい制度を導入するときは是非助成金の情報もチェックしてみてください。
就業規則は事業場ごとに作成するものですが、作成する際にはルールがあります。ここでは他の法令等とのルールを記載していきます。
労働条件を定めるものとして、就業規則の他にも労働基準法などの法令や、労働組合と締結する労働協約、労働者個々人と締結する労働契約があり、これらの関係は以下のように表すことができます。
法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約
それでは具体的にどのような取り扱いになるか、みていきましょう。
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法令(労働基準法等)
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労働基準法第92条にて、「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」とされていますが、反した場合については規定されていません。労働契約法にて就業規則で定める労働条件が法令又は労働協約に反している場合には、その反している労働条件は労働契約の内容とはならないとされています。したがって、法令に違反する就業規則は、その違反する部分については無効となります。
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労働協約
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労働協約とは労働組合法第14条で「労働組合と使用者又はその団体との間で労働条件その他に関する」事項について合意し、「書面に作成し両当事者が署名し、又は記名押印したもの」をいいます。また、当該事業場の労働組合と使用者が締結した労働協約のほか、その労働組合の上部団体などの労働協約が適用されていれば、それも含まれます。「i.法令(労働基準法等)」で述べた通り、労働基準法第92条や労働契約法によって、労働協約に違反する就業規則は、その違反する部分については無効となり、この場合の「反してはならない」は、労働協約の定めを下回ってはならないと通常解されています。
一方で、労働組合法第16条において「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。」とされています。この場合の「違反する」は労働契約の内容が労働協約の基準を上回る有利な場合も含めて無効とるため、後述の「ⅳ.労働契約」との違いもあわせてご確認ください。
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就業規則
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「i.法令(労働基準法等)」、「ii.労働協約」で触れた労働基準法第92条における「就業規則」と後述する「ⅳ.労働契約」で触れる労働基準法第93条における「就業規則」は、どちらも常時10人以上の労働者を使用する使用者が作成する就業規則だけでなく、常時10人未満の労働者を使用する事業場における就業規則も対象に含まれています。
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労働契約
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労働基準法第93条にて、「労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第12条の定めるところによる」とされており、労働契約法第12条にて、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」とされています。これによって、就業規則が労働契約より優位に立つことを明らかにしています。一方で、労働契約法にて就業規則で定める基準以上の労働条件を合意していた場合などでは合意した内容が優先されることも規定されています。
したがって、就業規則を下回る条件の労働契約は無効となり、その部分についてのみ就業規則が適用され、就業規則を上回る条件の労働契約は、その部分について労働契約が適用されます。しかしながら、このような場合は労務管理が煩雑になることが想定されますので、特段の理由がない限りは、就業規則の労働条件を引き上げることを検討してはいかがでしょうか?
就業規則を作成するときは、最新の法令に沿っているかだけでなく、実態とあっているかも大切です。作成したうえで意見を聴き、意見を記した書面を就業規則に添付して届け出を行います。
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就業規則作成の際の注意点
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就業規則を作成するときに、よくある例として、インターネットで検索した雛形をベースにする場合や知人から作成したデータの提供を受ける場合があります。「他のところでも使っている内容だから大丈夫だろう」と思う人もいるかもしれませんが、ちょっと待ってください。
実態にあわない就業規則の場合は、就業規則に実態を合わせるか就業規則を更に変更するといった対応が必要です。就業規則に実態を合わせることになれば、窮屈に感じることもあるでしょう。かといって何度も何度も就業規則を変更するのも手間がかかります。自組織で運用しやすい実態にあった就業規則を作成することが大切です。
雛形や貰ったデータに最新の法令の内容が反映されているでしょうか?しっかりと確認してから使う必要があります。それだけでなく、雛形や貰ったデータが本当に自組織の実態とあっているでしょうか?これは恐らくNoだと思います。細かな取り扱いも確認する必要がありますので、そのまま使えるケースはほぼありません。-
届け出の際の注意点
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就業規則には「届出義務」で示したとおり、常時10人以上の労働者を使用する場合は届け出義務がありますが、就業規則をそのまま管轄の労基署に提出すれば良いわけではありません。労働者の代表の意見を聴き、その者の署名又は記名押印のある書面(意見書)を添付して、事業場ごとに所在地を管轄する労働基準監督署に届け出なければなりません。
それでは、労働者の代表とはどのような人が該当するでしょうか?
労働者の代表とは、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、労働組合が無い場合や労働組合があってもその組合員の数が過半数を占めていない場合には、「労働者の過半数を代表する者」のことをいいます。
「労働者の過半数を代表する者」とはその事業場の全労働者の過半数を超える者によって代表者とされた者をいいます。なお、この「労働者の過半数を代表する者」の選任については労基法施行規則第6条の2により
①法第41条第2号に規定する監督または管理の地位にある者でないこと
②法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により
選出された者であること
といった要件を満たすことが必要です。「意見を聴く」とは、同意を得るとか教示を行うことまで求められているわけではありません。また、通達においても、添付した意見書が全面的に反対するものであったとしても、その効力発生についてほかの要件を備えている限り、就業規則の効力には影響がないとされています。
意見を聴いても意見書が提出されない場合はどのような取り扱いになるでしょうか?これは提示された就業規則に反対の場合に起こり得ます。通達にて、意見を表明しない場合でも、意見を聴いたことが客観的に証明できる場合には、受理するよう関係機関に指示がされています。
なお、届出や意見書の様式については特に定められていませんが、労働局のHPなどに雛形がありますので、ご確認ください。 -
就業規則で定める項目
- 就業規則に記載する必要がある内容は労基法第89条に定められており、「1.絶対的必要記載事項」、「2.相対的必要記載事項」、「3.任意的記載事項」の3つに区分されています。
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絶対的必要記載事項
- 絶対的必要記載事項とは必ず記載しなければならない事項で、労基法第89条第1項1号から3号までに定められています。
賃金関連
賃金(臨時の賃金を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期ならびに昇給に関する事項を定める必要があります。
「賃金の決定、計算」とは年齢、学歴、職歴、技能などの賃金の決定要素や賃金体系を言い、「支払いの方法」は銀行振り込み等が該当します。「賃金の締切り及び支払いの時期」とは日給なのか週給なのか月給なのか日給月給なのかという区分と、週給・月給・日給月給の場合は月のいつ締めでいつ払いかを記載しなればなりません。「昇給に関する事項」は、そもそもの昇給の有無だけでなく、昇給期間、昇給時期、昇給率、昇給する場合の条件についても記載する必要があります。
労働時間関連
始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項を定める必要があります。
「始業および終業の時刻」とはその事業場の所定労働時間の開始時刻および終了時刻のことを言いますので、「労働時間は1日8時間とする」という内容だけでは不十分です。なお、パート労働者などが本人の希望によって、始業・終業の時刻を画一的に定めないこととする者については、基本となる始業・終業の時刻を定めた上で、具体的には個別の労働契約などで定めるといった委任規定を設けることでよいとされています。
「休憩時間」は、長さや一斉か交替かといった与え方などを具体的に定めなければなりません。
「休日」については、日数や「1週2回」などの与え方を定める必要があります。それだけでなく、法定時間外労働の割増賃金と休日労働の割増賃金の計算を簡便にするため、週休2日制を採用している場合については法定休日と所定休日を明確にすることをお勧めします。
「休暇」については年次有給休暇や産前産後休暇、生理日の休暇といった法で義務付けられた休暇に対する与え方だけでなく、夏季や年末年始、慶弔休暇といった使用者が与える諸休暇がある場合には定めなければなりません。また、育児休業や介護休業もこの場合の休暇に該当するため、付与の要件や手続き、期間などについても定める必要があり、子の看護休暇や介護休暇も同様です。
「労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合」については、その交替期日や交替順序に関して記載する必要があります。
退職関連
任意退職、解雇、定年制、契約期間の満了による退職など労働者が雇用契約上の身分を失うすべての場合に関する事項を定める必要があります。
「解雇」と上述している通り、「解雇」する場合には就業規則に記載する必要があり、就業規則で解雇の事由を記載していない場合は法令違反に該当してしまいます。あまり考えたくない事象かもしれませんが、万が一に備えてしっかりと定めておくと安心です。
また、「定年の定め」をする場合も就業規則に記載する必要があります。定年については、高年齢者雇用安定法第8条で60歳未満の設定は禁止されており、定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの雇用確保措置を講じることが義務付けられています。
①65歳までの定年引き上げ ②定年制の廃止 ③65歳までの希望者全員を対象とした継続雇用制度の導入 |
これらによって65歳まで雇用が確保されることになりますが、この措置が終了するときに退職または解雇の事由に該当します。
令和3年4月1日の施行により、これらの義務に加えて、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、高年齢者就業確保措置として、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されました。
①70歳までの定年引き上げ ②定年制の廃止 ③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 ⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 |
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一言で「定年」と表しても、これらの内容を踏まえて自組織としてどれを選択して適用させるかを判断していく必要があります。
それだけでなく、定年後の継続雇用制度の対象となった従業員に対して求める仕事内容や役割、責任等も正職員の頃から変わることが多いです。正職員用の就業規則だけでなく、継続雇用制度の対象となった従業員(嘱託職員)に適用される規則も作成することをお勧め致します。
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相対的必要記載事項
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相対的必要記載事項とは、必ず記載しなければならないわけではありませんが、定めるときは必ず記載すべき事項で、労基法89条1項3号の2から10までに定められています。
退職手当
退職手当(退職金)制度は必ず設けなければならないものではありませんが、設ける場合は次の内容を定めなければなりません。
①適用される労働者の範囲 ②退職手当の決定、計算および支払の方法 ③退職手当の支払の時期 |
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①の適用される労働者の範囲については、同一労働同一賃金の考え方も踏まえたうえで設定する必要があります。
②の退職手当の決定、計算および支払の方法とは、例えば、手当額を決定する多延の要素である勤続年数、退職事由などや手当額の算定方法、一時金払いか年金払いあるいはその両方といった支払方法のことを表しています。
また、懲戒解雇などの場合には不支給にしたり減額したりする場合がありますが、このような支給を制限することは退職手当の決定、計算の方法に関する事項に該当するため、就業規則に記載する必要があります。
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臨時の賃金など・最低賃金額
- 「臨時の賃金など」と聞くと、賞与を思い浮かべる方が多いと思いますが、それ以外にも1か月を超える期間の出勤成績に応じて支給される精皆勤手当などが該当します。
費用負担
社宅費や寮費といった労働契約によって労働者に経済的負担を課す場合のことをいい、負担の内容や金額を記載する必要があります。
また、最近ではテレワークを実施しているところも増えてきましたが、通信料の負担をどうするかも気を付けるべきポイントです。
テレワークガイドラインでは、労使のどちらがどのように負担するか、使用者が負担する場合の限度額や、労働者が使用者に請求する場合のその請求方法等について、あらかじめ労使で十分に話し合い、企業ごとの状況に応じたルールを定め、就業規則等に規定しておくことが望ましいとされています。
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安全衛生
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労働安全衛生法や労働安全衛生規則など労働災害の防止、健康の確保等に関する法律に定められている事項のうち、その事業場の設備、作業内容などから特に必要とされるものや、これら法令に定められていないものでもその事業場の安全衛生の保持のために必要な事項をいいます。
テレワーク中においても、上述のテレワークガイドラインに記載されている通り、過重労働による健康障害を防止するための措置などに留意する必要があるとされているため、就業規則にも記載する必要があるでしょう。
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職業訓練
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該当する事項としては行政解釈で次のようなものとされています。
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①行うべき職業訓練の種類
②訓練に係る職種等訓練の内容
③訓練期間
④訓練を受けることができる者の資格など
⑤職業訓練中の労働者に対し特別の権利義務を設定する場合には、それに関する事項
⑥訓練終了者に対し特別の処遇をする場合には、それに関する事項など
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災害補償・業務外の傷病扶助
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災害補償については労働基準法において定められているためここではその細目を定める場合や、労働基準法または労働者災害補償保険法(労災保険法)による給付を上回る補償を行う場合に記載する必要があります。
また、業務外の疾病、負傷または死亡についての給付は健康保険法や厚生年金保険法に定められており、それらの給付以外の扶助などを行う場合には記載する必要があります。
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表彰・制裁
- 表彰の定めをする場合には、その種類と程度に関する事項を記載する必要があります。
制裁・懲戒を行う場合にも、その種類と程度を記載しなければなりません。
制裁・懲戒の効力については、労働契約法第15条に該当する場合や、公序良俗に反していた場合には権利の濫用として無効になる場合もあります。
ちなみに労働契約法第15条には、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定されています。
懲戒を行う場合にはくれぐれもご留意ください。 -
その他、当該事業場の労働者全員に適用される決まりに関する事項
- この内容は、旅費、試用期間、配置転換、出向、休職、副業・兼業、福利厚生、公益通報、勤務心得などが該当し、定める場合には就業規則に記載しなければなりません。
副業・兼業については以前は認めていない傾向が高かったですが、徐々に認めるところも増えてきています。取り扱いをしっかりと定めることで従業員とのギャップを無くすことが大切です。
厚生労働省から副業・兼業の促進に関するガイドラインも出ているので、この機会にこちらもご確認ください。
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就業規則の任意的記載事項
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任意的記載事項とは、労働基準法上では特に定められていません。法令などに違反しない限り、自由に定めることができます。会社の理念や、就業規則作成の目的、服務規律や守秘義務に関すること、就業規則の効力発生時期などが該当します。
社是や社訓、会社の理念
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社是や社訓、会社の理念といった内容を就業規則の前文に記載する会社もあります。これらのものは会社の大切にしている考え方を表したものと言えます。就業規則は職場におけるルールブックとしての役割もありますので、社是や社訓、理念を記載することで、従業員と考え方を共有するためのツールにもなり得ます。上述している、「就業規則の周知義務」の内容とも関連して、せっかく周知するからには理念の共有も図りたいと考える会社におすすめの内容です。
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就業規則の制定目的や趣旨
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就業規則の制定目的や趣旨を条文化する意味合いとしては、会社としてなぜこの就業規則を作成したのか、どのような内容を記載したのかということを従業員にしっかり伝えることがあると思います。目的を規定することによって、就業規則の位置づけを明確に示すことができます。
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入社に関する事項
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採用時の手続きや提出書類、試用期間を設ける場合のその内容なども、就業規則上は任意的記載事項が該当します。不要なトラブルを避けるためにも、記載すべき内容と言えると思います。
特に試用期間については、ご相談を頂くケースが増えてきています。労働基準法上では、試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めはありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくないとされています。また、試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時解雇することができますが、14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要です。
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人事異動に関する事項
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会社が業務上の理由により就業場所や従事する業務を変更することは、「変更しない」といった特別な合意等がない限り可能です。しかし、労働者の意に沿わない変更を命じた場合に、トラブルが生じる可能性がありますので、就業規則上でもしっかり明記をしていくことが望ましいと言えます。
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職務区分や職制に関する事項
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職務とは、その人が担当している仕事をいい、看護師や調理師など資格を有していなければならないような、高度な技術が求められるものもあれば、特定の専門的な能力を活かし更にその能力を高めるために職務を限定する場合もあります。
職制とは2つの意味があり、1つ目は職場でその人が担当する役割の分担に関する制度をいい、2つ目は職場で働いている人たちを管理する役付きの職員、またその人のことをいいます。
職務や職制に応じて求める内容が変わることもあると思いますので、明確にしておくことで従業員同士のトラブル予防にも繋がります。
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服務規律や守秘義務などに関する事項
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服務規律や守秘義務についての内容は、就業規則に必ず定めなければならない事項ではありませんが、職場の秩序維持に大きな役割を果たす内容と言えますので、自組織の労働者に対して何を遵守して欲しいのかを定めると良いと思います。組織によって想定される内容も異なるでしょうから、公序良俗に反しない範囲で思いつく限り列挙していくことも、対応方法の一つです。
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職務上の発明発見の取り扱いやその対価に関する事項
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特許法第35条第1項にて、「職務発明とは、従業者等がした発明であって、その性質上使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明」とされています。想定されるトラブルとしては、特許を受ける権利や著作権はどこに帰属するのかという点や、会社側が権利を有するときに、労働者に対して相当の利益を付与するかという点があります。こういった場合に備えて、「職務発明規程」を作成するのも良いと思います。
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就業規則の運用方法
就業規則は作成後も、その都度変更していきながら、活用していくことになります。こちらでは、それぞれの場面で気を付けるべきポイントをご確認ください。
雛形を使う際のポイント
就業規則を作成する際や変更する際に、厚生労働省HPにある「モデル就業規則」を参考にする場合があると思いますが、空欄となっている日数や労働時間の数字を埋める作業になっていませんか?
確かに「モデル就業規則」は一般的な規定がどのようになっているかを確認するには良いと思いますが、企業規模や会社の実情はさまざまです。「一般的」や「モデル」が一概に自社に適しているとは言えません。実態に適した就業規則を作ることが大切ですので、ご不安な場合は一度専門家に相談することをお勧めします。
就業規則に見直しが必要な理由
就業規則には会社のルールを記載しています。その就業規則の根底にあるのは各種法令です。法改正の度にその内容を反映した就業規則に見直す必要があります。昨今では法改正の頻度も多く、「どの法律に対応するために、どの規則のどの規定を見直す必要があるか」といった判断がその都度求められます。
参考までに2022年1月以降で法改正された主な内容は以下の通りです。
・1月 傷病手当金の支給期間の通算化
・1月 雇用保険マルチジョブホルダー制度
・4月 育児介護休業法
・4月 女性活躍推進法
・4月 個人情報保護法
・4月 パワハラ防止法(中小企業に適用)
・10月 育児介護休業法
・10月 社会保険の適用拡大
また、法改正以外にも社内の運用ルールの変更があれば、就業規則も見直しする必要があります。何かを変えるタイミングで関連した対応が求められることに留意しなければなりません。
就業規則が必要なタイミング
ここらからは、実際に就業規則を活用するタイミングはどのような場面かをご説明致します
① 従業員を採用するとき
就業規則には働く上でのルールが記載されています。採用時に自社のルールとして説明することで、新しく入る従業員も安心して働くことができます。それだけでなく、しっかりと実態に適した就業規則ならば、事業主側(採用担当者側)も従業員への説明がしやすくなるといったメリットも生まれます。
② 試用期間の意味と運用方法を確認するとき
新しく従業員を雇った際に試用期間を設定する場合があると思います。該当の期間や、延長・短縮・免除の有無、試用期間で終了となる場合の取り扱いなど、必要に応じて規定しておくことで、採用した従業員に対して丁寧に説明することができ、会社も従業員の安心につながります。
③配置転換や出向が発生したとき
会社が人事異動を発令する際に、配置転換や出向となることもあると思います。就業規則へ明確に規定することで不要なトラブルを防ぐことができます。また、就業場所が変更になるような場合は、従業員の育児や介護の状況について配慮しながらご対応ください。
④従業員のトラブルや問題が発生したとき
何かトラブルや問題が起きたときに指針となるのも就業規則です。服務規律を具体的に規則に落とし込み、従業員に周知を図ることで防げる問題もあるでしょう。懲戒規定を整えることで、適正な処分を下すこともできるでしょう。仮に従業員がハラスメントを受けているような場合があっても、相談窓口やその後の対応を明記することで、従業員も安心して相談できる環境を整えられます。逆に行為者には適切な処分を行うことも明記しておきましょう。
⑤ 時間外労働や休日出勤を命令するときの使用者の権利を確認したいとき
仕事をする上では、時間外や休日の勤務を求めることもあると思います。36協定の締結、届出を行うだけでなく、就業規則上でも明記しましょう。時間外労働や休日出勤を命令できない場合もありますので、どのような場合に命令することができないかも確認の上ご対応ください。
⑥ 遅刻や早退、欠勤などの取り扱いを確認したいとき
いずれの場合も会社に連絡はして欲しい内容だと思いますが、「いつ」「だれに」「どのように」連絡するかを就業規則に明記しましょう。
予め想定できる内容なのか、突発的に起こる内容なのかで対応も分かれてきます。どちらの場合でも必ず書面で届け出ることを決めておけば、後から振り返ることもできるようになるので安心ですね。
⑦従業員の健康に関する事項や、傷病による休職などの取り扱いを確認したいとき
従業員が何日も会社を体調不良で休んでいたら、事業主もとても心配ですね。従業員が何か重大な病気にかかっているかもしれません。そんな時に対応できるよう、しっかりと医師の診断を受け、会社へ診断書を提出することを就業規則に記載することで、事業主としての健康管理義務を果たしていきましょう。検査や診断書には費用が発生するため、その負担を誰がするかも明記しておきましょう。
万が一、従業員が長期で休まなければいけない事象が生じても、休職制度があると安心できます。申請方法や期間、復帰後の取り扱いなどを明記しておきましょう。期間については場合によっては新たな従業員を採用することも検討する必要がありますので、留意してください。
不利益変更の注意点
就業規則の不利益変更は原則としては禁止されています。ただし、変更後の就業規則を従業員に周知させ、就業規則の変更が合理的なものである限り、変更後の就業規則は有効であるという旨が労働契約法第10条に規定されています。
その上で、合理的なものであるかの判断基準にあたっては、以下の5つの要素を考慮する必要があります。
①労働者の受ける不利益の程度 ②労働条件の変更の必要性 ③変更後の就業規則の内容の相当性 ④労働組合等との交渉の状況 ⑤その他の就業規則の変更に係る事情 |
これらの内容を踏まえた、非常に慎重な対応が求められます。
就業規則の変更による賃下げは可能なのか?
上述のように、状況に応じて合理的か否かの判断が分かれることが想定されますので、ここでは過去の判例を基にご説明致します。
従来の年功型賃金体系から能力・成果主義型賃金体系を導入する高度の必要性があり、変更後の就業規則・給与規定の各基準についても詳細な定めがあると認められ、その定めの個々の要件についてはある程度抽象的な表現となっているが、それは性質上やむを得ないものであり、これらの基準等を検討しても、それが不明確であるということはできず、新給与規定を不合理なものということもできない。 (ハクスイテック事件 大阪高判平13・8・30労判816・23) |
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退職金が賃金の一種であると認められる場合、就業規則の変更により退職金の支給基準を引き下げ、労働者に不利益な労働条件を課すことは、労働基準法の規定に照らし、著しく不合理であるから、労働者はその改正規則条項の適用を拒むことができる。
(大阪日日新聞社事件 大阪高判昭45・5・28高民23・3・350) - ハイスイテック事件については、体系変更について、高度の必要があることや変更後の各基準が明確であることが判断基準の一つとされ、大阪日日新聞社事件では就業規則の変更に伴う退職金の支給基準の引き下げが著しく不合理であると判断がされています。
いずれにせよ、就業規則の変更による賃金引下げなどの不利益変更は簡単に行うことはできないと認識しておきしょう。
労働条件や待遇をやむを得ず不利益変更する場合
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それでもやむを得ず不利益変更をしようとする場合もあると思います。その時には、上述の5つの要素を踏まえた丁寧な対応が求められます。合理的なものであるか否かを判断するのは非常に難しいため、検討段階で早めに専門家へ相談されることをおすすめ致します。