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民法改正による残業代未払いへの対応は?残業代未払い請求の時効期間が5年延長

2022.11.09 コラム

栃木県を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アミック人事サポートです。

今回は「民法改正による残業代未払い請求への対応」について解説していきます。

 

未払い残業代とは

「未払い残業代」とは、なんらかの理由で企業から支払われなかった残業代のことです。

もともと残業代には、以下の3つの種類があります。

  1. ・時間外労働
  2. ・休日労働
  3. ・深夜労働

 

時間外、休日、深夜の労働に従事する従業員へ、通常の賃金に一定の割合で金額を割増して支払われるのですが、支払われなかった場合は「未払い残業代」となってしまうのです。

未払い残業代が発生すると、従業員から請求されます。

未払い残業代を請求できる期間を「未払い残業代の時効期間」と呼びます。2020年4月の法改正により、未払い残業代の時効消滅期間が延長されました。

2020年法改正以前の「未払い残業代」消滅時効

2020年4月1日の民法改正以前は、一般的な債権の時効期間は10年でした。しかし労働に係る債権は「1年」と、短く設定されていたのです。

一方、改正前の労働基準法では、残業代も含めた賃金の債権について時効期間を2年としていました。

民法では債権が1年と短いため、労働者が不利にならないように労働基準法で時効期間を2年に延長したのです。

法改正以後の「未払い残業代」消滅時効

2020年4月1日に民法が改正されました。債権法が変わって「短期消滅時効」が廃止になり、債権の消滅時効期間が5年に統一されたのです。

その結果、労働基準法で規定する時効期間(2年)のほうが、民法の新規定(5年)よりも短くなりました。

これでは労働者を保護するはずの労働基準法が、民法よりも不利になる「ねじれ現象」が起こってしまいます。

そのため労働政策審議会で、労働基準法における賃金の時効期間の5年延長を審議しました。その結果、2020年4月1日施行の労働基準法で「消滅時効期間」を当面の間は3年と決定したのです。

経過措置で当面は3年ですが、段階的に新ルールに移行します。

 

残業代の未払いで企業側が受けるペナルティ

未払い残業代を請求されたときに、対応せず放置するとペナルティが課されます。残業代未払いで、企業が受ける措置の内容を解説します。

労働審判の申し立て

残業代の未払いが続くと、労働者が「労働審判手続き」に踏み切る可能性があるでしょう。

労働審判では、原則として3回以内の期日で審理が終了します。不服があれば異議申し立てを行えますが、訴訟手続きに移行することになります。

裁判や訴訟に発展する

労働審判で解決しなかった場合は、訴訟に発展します。裁判になると、判決が下されるまでに長い時間がかかります。

裁判が長期に及ぶと、金銭面で大きな負担がかかるでしょう。紛争が長期化すると遅延損害金が膨らむためです。

裁判所は労働者側の言い分に重きをおくため、企業側が敗訴する可能性も高くなります。

遅延損害金制度

未払い残業代では、支払われるべき賃金が支払われずに遅延しているため「遅延利息」が発生します。

遅延損害金は、企業の形態によって利率が異なります。

  • ・株式会社など営利目的  年利6%
  • ・NPO法人など非営利組織  年利5%

上記の利率は、従業員が在職の場合です。

従業員が退職している場合は、年利14.6%となります。

付加金制度

訴訟で労働者の請求が認められた場合は「遅延損害金」に加えて「付加金」も支払わなくてはなりません。付加金にも遅延利息が発生します。

付加金は未払いの残業代と同一金額が限度のため、支払う額が2倍になる可能性もあるでしょう。

罰金や罰則がある

残業代未払いで、罰則や罰金が課される場合もあります。労働基準法違反において、懲役刑や罰金が規定されているためです。

労働基準監督署から是正勧告書の発行を受けても改善しない場合は送検され、刑事処分になります。

残業代未払いには、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています。

労働基準監督署の立入検査

従業員が労働基準監督署に残業代の未払いを申告すると、立入検査(臨検)が行われます。

臨検では、労働基準監督官が来訪します。内部告発に基づく申告監督の場合は、突然訪れることもあるでしょう。

調査の結果、残業代の未払いが発覚すると、法違反に対する是正勧告書が発行されます。是正の期日までに対応を終えなくてはなりません。

 

残業代の未払いで企業側が受けるリスク

残業代未払いによって企業が受けるペナルティは、罰則や罰金だけではありません。企業が受けるリスクには、以下のようなものがあります。

従業員のモチベーションや意識が低下する

残業代未払いの対応で誤りがあった場合、ほかの従業員にも筒抜けになってしまいます。従業員同士で情報を共有し、残業代未払いの事実が社内に広まるためです。

その結果、企業に対する従業員の感情は悪化し、モチベーションも低下するでしょう。意識の低下を防ぐためには、ほかの従業員への影響を考慮した対応が必要です。

ほかの従業員の残業代支給

従業員から残業代未払いの請求を受けた場合、複数人に残業代の未払いが生じている可能性があります。

まずはほかの従業員に残業代の未払いがあるかどうかを確認しましょう。場合によっては、ほかの従業員も支給する必要があるかもしれません。

企業のイメージが低下する

社外に残業代未払いの事実が判明した場合、企業のイメージが低下するでしょう。労基法37条違反として公表される場合があるからです。ブラック企業のレッテルを貼られ、外部からの評判が低下する可能性があります。

転職サイトやSNSに、残業代未払いについてリークされる可能性も高いです。その後の人材採用が難しくなるかもしれません。

ハローワークでは、労基法37条第1項違反として、1年間に2回以上是正勧告を受けている場合、求人が不受理の対象となることがあります。

 

未払い残業代請求を受けた場合の説明ポイント

従業員から残業代未払いの請求を受けた場合は、説明を行わなくてはなりません。説明を行う際のポイントについて解説していきます。

消滅時効が成立している

未払い残業代の消滅時効は、以下のようになります。

  • ・2020年3月31日以前のもの → 2年
  • ・2020年4月1日以降のもの → 5年(当面は3年)

残業代未払いの請求を受けたら、消滅時効が成立していないか確認しましょう。支払う残業代の金額が減る可能性があります。

従業員が主張している労働時間が事実と違う

従業員が主張している労働時間が、事実と違っていないか確認しましょう。使用者の指揮命令下に置かれていない時間は、労働時間として認定できません。

正しい休憩時間以外に、長時間のタバコ休憩などをしていた場合は残業とみなされません。残業と言いながらネットサーフィンをするのみで、仕事をしていない場合も同様です。

非雇用契約である

雇用契約ではなく請負契約の場合は、未払い残業代を支払う必要がありません。ただし対象者の勤怠管理が行われており、指揮命令監督下にある場合は偽装請負とみなされる場合があります。

裁判で労働者側の弁護士に偽装請負であると主張された場合は、具体的な事実に基づく説明が必要です。

みなし労働時間制(固定残業手当)を利用している

「みなし残業代」または「固定残業代」という名目で、毎月決まった残業代を支給している場合は、すでに支払っていると説明できます。

就業規則や、雇用契約書の規定を再度確認しましょう。

ただし、みなし残業時間以上に労働が行われていた場合は、別途残業手当の支給が必要です。

管理監督者である

労働基準法では「監督若しくは管理の地位にある者」に該当すると、労働時間・休憩および休日に関する規定の適用からはずれます(労働基準法41条2号)。

そのため管理監督者には、残業手当の支払いは必要ありません。ただし管理監督者であっても、深夜手当の支給は必要です。

残業を禁止している

社内規定で残業を禁止している場合は、従業員からの残業代請求を否定できます。ただし残業禁止の命令だけでは、残業代請求への反論を行えません。

残業を許可制にする、または管理職に引き継ぐなど具体的な対策を行う必要があります。

 

未払い残業代の請求を受けたときに取るべき対応

残業代の未払い請求を受けた場合は、しっかりと事実を確認し速やかに対処しましょう。迅速な対応がリスク防止につながります。

必要に応じて、専門家に相談するのが有効です。

残業代を算定したうえで対応する

従業員本人が未払い残業代を請求した場合は、計算の間違いや時効消滅分が含まれるケースがあります。

タイムカードや勤怠システムの情報をもとに、正確な労働時間を再確認して残業代を算出しましょう。

早期対応を心がける

従業員から残業代未払いの請求を受けた場合、労働時間の管理に不満を持っている可能性があります。

そのため、請求を受けたらすぐに適切な対応を取ることが大切です。対応が遅い場合は、紛争に発展してしまうかもしれません。早期の対応を心がけましょう。

情報の開示に応じる

残業代未払いで、従業員からタイムカードなどの証拠開示を求められることがあります。

使用者がタイムカードを開示する義務は、現在の法令では定められていません。ただし開示の拒否をすると、不正行為に基づく損害賠償責任が認められる場合があります。

そのため証拠の開示を求められたら、応じたほうがよいでしょう。

専門家に相談する

残業代未払いの問題は、企業に大きな影響を及ぼします。間違った対応を行うと、企業の存続にも響くでしょう。

そのため、早い段階で専門家に相談をすることが大切です。残業代未払いの問題が生じたら、すぐに専門家に相談して早期の解決を目指しましょう。

「残業代未払い対策」の取り組みについて、企業は対応策の検討が必要です。

社会保険労務士法人アミック人事サポートでは、企業の状況に応じてご提案をさせていただいております。お困りごとがございましたら、些細なことでも、ご相談ください。

 

労働基準監督署から指導や監督が入った場合の対応

残業代の未払いで、労働基準監督署から指導や監督が入ることがあります。

労働基準監督署からの連絡があった場合は、動揺するかもしれません。しかし早期対応を誠実に行うことで、解決に結びつきます。

労働基準監督署からの連絡があった場合は、回答の無視や先延ばしをせずに、落ち着いて対応しましょう。

 

未払い残業代の予防と今後の対策

2020年4月1日の民法改正で、残業代請求の消滅時効期間が2年から5年に延長されました(当面は3年)。

未払い残業代を請求された場合、企業が払う額がこれまでよりも増えます。

そのため、今後は未払い残業代の予防に力を入れなくてはなりません。

未払い残業代が発生しないように、職場環境の構築を行いましょう。具体的な予防と対策の方法を解説します。

労働時間を把握できる仕組みを構築する

残業代未払いを予防するには、労働時間の把握が必要です。

2019年4月からの働き方改革により「労働安全衛生法」が改正され「労働時間の客観的な把握」が義務化されました。

厚生労働省が推奨している方法は、以下のとおりです。

  • ・タイムカードによる記録
  • ・パーソナルコンピューターなど電子機器使用時間の記録
  • ・その他の適切な方法

従業員の出社・退社時間を正確に記録するには「ICタイムカード」の打刻が有効です。勤怠管理システムと連動させると、さらに労働時間の把握と管理がしやすくなります。

残業の事前承認制度を設ける

残業代の未払い請求を防ぐには「残業の事前承認制度」を設けるのが効果的でしょう。事前承認制度とは、労働時間を超えて仕事をする際に「残業の可否と超過時間」について上司の許可を得る仕組みのことです。

残業をする際には必ず事前の承認が必要になるため、時間外労働を管理できます。事前承認制度を取り入れて、不要な残業を防止しましょう。

就業規則や労働時間を見直して改善する

残業代の未払いを予防するには、就業規則の整備が必要です。雇用計画のベースとなる規則であるため、専門家とともに確認しましょう。

自社の残業実態に適した就業規則への作り変えも、検討してください。

労働時間の適切な管理も、企業の義務であり重要事項です。タイムカードやアクセスログの整備を行い、労働時間の適切な把握に務めましょう。

残業代未払い対策の取り組みについて、企業は対応策の検討が必要です。

社会保険労務士法人アミック人事サポートでは「就業規則や労働時間の見直しと改善」についてのご提案をさせていただいております。お困りごとがございましたら、些細なことでも、ご相談ください。

 

未払い残業代請求の対応まとめ

今回解説したように、未払い残業代の消滅時効が2年から5年に延長されました。当面は5年ではなく3年となっていますが、一定の時間が経過したあとに再検討されます。

 

時効期間が延長されると、残業代未払いのリスクはさらに高まります。労働時間を管理できる体制をしっかりと整え、残業代の未払いが起きないように対策をしていきましょう。

今回解説しました「残業代未払い対策」について、少しでも難しいと感じた場合は専門家へ相談することをオススメいたします。社会保険労務士法人アミック人事サポートでは、残業代未払い対策に強い専門家が対応させていただきます。

本コラムをご覧になり、人事労務に関する相談をご希望の場合は、お問い合わせからご連絡ください。

 

 

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